[6118]たけもと さん
川島令三氏の「トンデモ」ぶりの考察、拝読いたしました。
もちろん、私も川島氏の提言の全てに賛同するものではありません。
[5489]での例示は、氏がただ単に新しいものを造ればいいという思想の持ち主ではなく、柔軟な発想で(こういうことを「トンデモ」というのでしょうね)鉄道の利便性向上を考えているということがわかるようにするために引いてきたものです。
単線新幹線など疑問の余地が多いですし、せっかくの新幹線ならば、できる限りフル規格で建設すべきだと私は思っています。
まず、私が川島氏を全面的に支持しているわけではないということはご了解いただきたいと思います。
しかし、だからといって川島氏の提言を全面的に否定してかかる態度は取りたくはありません。なぜなら、私が知る限り鉄道政策についてこれほど活発に発言をしている人はいないからです。
鉄道行政は古くから政官業の駆け引きによって展開され、一般の人々はひたすら与えられるサービスを与えられた形で受け取ってきた感があります。川島氏のように鉄道行政を評価し提言するような言論はほとんどなかったのではないでしょうか。そういったところに川島氏のような人物がおられることによって、さまざまな政策的可能性を一般の人々が考えることができるようになったという点において、氏にも一定の役割があると、私は好意的に評価するのです。
川島氏の基本的考え方は、「建設費を抑えながら早期に」整備新幹線を開業させようとするものではないかと私は解釈しています。そういうコンセプトで地域性を加味しながら建設方法を分析しているという限りにおいては、あながち「トンデモ」とばかり言えず、的確な論理展開ではないかと思います。
もちろん、こういった基本思想についての賛否はあるはずです。
また、たけもとさんご指摘の、川島氏の主張が変節する点についてですが、この原因には行政やJRの方針が一貫していないということも考えられないでしょうか。
1987年に新規着工凍結解除が閣議決定されたのち、運輸省は明らかに在来線の高速化による新幹線への格上げ(建設費圧縮)を方針としていたと思われます。それは、当初フル規格での整備が整備計画線全体のうちで北陸新幹線高崎-軽井沢間と東北新幹線沼宮内-八戸間でしか想定されておらず、その一方で二重投資になりかねない北越北線(北越急行ほくほく線)の高規格(スーパー特急方式)での整備を進めたということに如実に現われています。
また、JR西日本は当初、北陸新幹線の狭軌新幹線(スーパー特急)での整備を求め、フル規格の場合は全線一括での開業を条件にしていましたが、99年8月に南越または敦賀までの部分開業を容認しましたし、JR東日本は北陸への延伸を条件に、渋々長野-上越間の延伸を了承した経緯があります。
しかし時を経て、今や九州新幹線長崎ルート以外の整備計画線全区間でフル規格での建設が予想される情勢となりました。
[5489]の例示は、時系列での説明を欠いたために解りづらくなっていたものと思われます。
まず、北陸新幹線の狭軌新幹線化についてですが、この提言を川島氏が行ったのは、まだ北陸方面の整備計画がフル規格ではなかった時期だったということがポイントです。それに加えて長野以遠の着工すら流動的だった当時の提言です。
この時点においては、北陸新幹線の北陸本線並行区間は狭軌新幹線となる公算が大きかったため、フル規格は長野までの「長野新幹線」として、北陸へは別に北越急行・北陸本線経由で一部新線を建設するルートで金沢までの開通を目指したほうが安く早くできるし、あらゆる駅に新幹線電車を停車させられる、というのが氏の論説ではなかったかと思います。
しかし99年9月、与党は全線フル規格へ向けた新スキームを取りまとめ、01年4月、ついに国土交通省は、富山までのフル規格への整備計画変更を鉄道建設公団に認可しました。これには多分に政治的決着の色合いが認められます。
ですから、たけもとさんが
>結局富山・金沢まで新幹線が来ることが決まった現在、一時期だけスーパー特急方式を採用するメリットは無>いように思います。
とおっしゃるように、今となってはこの方法には何らの利点も感じられなくなるのです。
また、東北新幹線盛岡以北ですが、これも北海道新幹線の去就が定かではないため、論調が一定していないように見えるのかもしれません。
ですから、
>川島氏は以前は、東北新幹線はミニ新幹線で充分だ、という論調を展開されていたんですが前言を撤回したよ>うですね。
の部分は合ってはいますが、完全にそうとも言えないのではないでしょうか。
川島氏は「北海道新幹線を造るのならば」東北新幹線は全線フル規格にするべきだとおっしゃっているのであり、ミニでも差し支えないだろうというのは、東北新幹線で終わってしまう想定でのコストと需要を勘案した提言だと思います。実際、今年1月にようやく鉄建公団から国土交通省に工事実施の認可申請は出されたものの、現在も北海道新幹線の着工時期は未定のままです。
>一部だけ東京に直通すればいいんですよ。(∧∧;)
このような意見には賛同できませんね。
たしかに、多額の費用を要する都心部の線増はそれだけを見れば「ぜいたく」だとか「無駄遣い」だとか思われるでしょう。しかし、全国的な高速鉄道網の一環としてとらえれば、決して浪費には当たらないと思います。
この上越新幹線新宿ルートは、上越新幹線であると同時に北陸新幹線新宿ルートでもあるという点も忘れてはならないことです。北陸新幹線のほぼ全線のフル規格化への見通しがつき、北海道新幹線の着工も時間の問題となりつつある今、大宮以南の新幹線線増は実質的必要度が高いと私は認識します。
高速鉄道たる新幹線は、長距離にわたって各地の主要都市を結んでこそ真価を発揮するものです。その新幹線が、肝心要の東京都心部の主要ターミナルに乗り入れられないというのであれば、せっかくの価値がグンと下がってしまいます。それこそ、何のために新幹線を建設したのかという意義すら問われかねません。
本来ならば上越新幹線の正式な起点にこだわらず東京駅までの線増が望ましいのですが(私の個人的見解)、それが物理的に困難な状況下では、新宿延伸は、新宿あるいは新宿駅の都内での占める地位から見ても妥当性のある対応策だと思われます。
また、今まで都心に直通していた電車が、その後に都心直通をしないというのは著しいサービスの低下になります。これまで、その逆はあってもこういったケースはなかったのではないでしょうか。
私は、地球温暖化対策が求められる昨今、公共投資における鉄道事業はそんなに渋るべき部門ではないと考えています。それに、もともと整備新幹線の事業費が予算に占める割合は、他の公共事業と比べて非常に小さい(高速道路や空港整備関連とは桁がちがう)のが実情です。
自動車や航空機の二酸化炭素排出による環境への負荷を考慮すれば、高速交通への投資は高速道路、空港から新幹線にシフトしていくのが好ましいと思います。単純に高速道路や空港を造らないほうがいいというわけではありませんが、自動車や航空機の特性も活用しながらより鉄路中心の整備をしていったらいいのではないかと私は考えます。
その意味で、JR九州が九州新幹線(鹿児島ルート)のフル規格整備に協力的で、最高時速300キロでの営業運転を計画しているということは評価できることだと思っています。
大局的見地から長距離高速輸送を考えたとき、新幹線大宮以南の整備は、コストはかかってもやはり必要なことだと思われます。もっと言えば、東海道新幹線の支線を新宿まで通して東京駅のターミナル機能を分散できればいいのですが、これには相当な困難がともなうものと予想されます。
でも、そういったことがかつては構想されていたという事実は、単に画餅というわけではなく、現代にもいろいろな示唆を与えてくれるものではないかと思います。